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NDロードスター試乗インプレッション『ND新時代の到来』

 

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新型NDロードスターに試乗した。

3月の市販プロトタイプ試乗記を書いてから2ヶ月。市販バージョンを5月20日に正式発表、21日発売となり、 新型マツダロードスター NDの全てのグレードに試乗する機会を得た。最もベーシックなS (990kg) 6MT 249万4800円、Sスペシャルパッケージ (1030kg) 6MT 270万円、Sレザーパッケージ 6EC-AT(アクティブマチック、1060kg) 314万2800円の3台でS以外はi-ELOOP+i-stop装着車

私はロードスターをNA(初代)、NB(2代目)、NC(3代目)と何台も乗り継いでいて、本当に好きなクルマのひとつ。先代NCロードスターの2.0ℓ170PSに対して、新型NDロードスターは1.5ℓ131PSエンジンへと排気量とパワーが絞られているがボディやサスペンションなどアルミを多岐に渡って使用するなどコストをかけた軽量化技術が投入され、最軽量モデルのSでは車両重量990kgを達成している。全幅は歴代でもっとも広い1735mmだが、全長は3915mmと歴代で最も短くコンパクトとする割り切った設計とするなど新世代ライトウェイトスポーツの理想を目指したマツダの意欲作だ。

NDロードスターのデザインは内外装の質感の高さと相まって歴代ロードスターの中で『大人のスポーツカー』を最も意識するモデルだ。野生動物、チーターを彷彿とさせるものとし、フロントノーズ先端部は低く、ワイルドだ。実際のクルマよりも大きく、存在感がある。一方でリヤはワイドに張り出したフェンダー、上部をコンパクトに絞り込み、シンプルな丸いテールランプを配置するなど愛らしさとコンパクトさが感じられるデザイン。両極端な2面性を持ち、サイドビューは特徴的な『逆ウェッジシェイプ』を描き、上部から見ればディアドロップ形状にも見えるような躍動的で抑揚のあるデザインを採用している。これまでより1クラス上のスポーツカーや輸入車を所有していたユーザーが思わず振り返るそんな存在感のある独特のデザインだ。『格好良く、ちょっと都会的でオシャレ』という今のマツダブランドを象徴するモデルと言えるだろう。


<とにかく乗りやすい新世代ロードスター>

NDロードスターの『走り』を一言で表現するならば『誰もがライトウェイトFRオープンスポーツの走りを気軽に楽しめるクルマ』スポーツカービギナーにとってエントリーしやすく、間口の広いセッティングだ。これまで歴代ロードスターがもっていたクイックなステアリングやダイレクト感溢れるシフトやスロットルなどによる楽しさ。これらと引き替えに持っていた乗りにくさ、扱いにくさといったネガティブな面(これらはほんの僅かだが)を徹底して改善に次ぐ改善を行い、とにかく乗りやすく、みんなにスポーツカーの気持ち良さを感じられるようにと、今のマツダが考えるライトウェイトスポーツのあるべき姿を具現化したモデルだ。誤解を恐れずに言えばちょうど先日、提携関係を結ぶと発表されたトヨタ的な親しみ易さがプラスされたロードスターとも言える。
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<エクステリアデザイン>

キリリとした鋭いデザインは歴代ロードスターとは一線を画すもの。小型LEDライトの採用により、精悍なイメージとなり、フロント部の存在感は歴代で最も大きい。ボディ面の質感がとても高く、上質なプレミアムカーに迫る雰囲気が漂う。ただし、量産市販バージョンは車高が少し上がり、ホイールハウスの隙間が30mm程度広がった。ボンネットとフロントフェンダーとの隙間も若干広がり、白いボディカラーでは少々、気になるというのが正直なところだ。

 

<NDロードスター 公道インプレッション>

ベーシックなSに乗り、ギヤを1速に入れて走り出す。ボディの軽さを感じさせる軽快な走り出しが爽快だ。エンジンもフリクション感が少なく軽快に回り、乾いたエキゾーストノートと息の長い加速感が続く。シフトフィールはスムーズで各ギヤに吸い込まれるようにシフトアップ出来る。速度がスルスルと上がっていくスムーズさ、軽やかさが印象的な爽やか系の走りだ。もし初めてオープン2シーターに乗るという人は今まで知らなかった風を感じながら走る世界に夢中になることだろう。サスペンションはしなやかに路面を捉え、軽量スポーツカーにありがちなコツコツとした突き上げや硬さは感じられない。まさに『大人になったロードスター』であり、あたりはとても優しい。クルマの動き、ロール量は大きめに設定され、アグレッシブなフロントデザインやセンターにタコメーターを配置するレーシーなコクピットから想像するよりもずっと洗練された走りで普通にロードスター感ある走りを堪能できる。
エンジン、ミッション、デフレンシャルギヤを含め不快なノイズがよく抑え込まれ、パワートレイン系の質感の高さが感じられる。エンジンは低速、中速、高速とどの回転域でも扱い易く、フラットなトルク特性。ギヤ比のセッティングはちょうど歴代5MTのロードスターに近いものに6速がオーバードライブで追加されているようなイメージ。NB、NC時代の6MTのように急かされる感じはない。回しても流してもちょうど良い、絶妙なセッティングだ。このギヤ割りは良い。発進時とシフトアップした直後のトルク感も上々で車体をグッ、グッと前に押し出す。その後、落ち着いてから伸びるように加速度を増す特徴的なセッティング。まさにNDのボディサイドデザインのようなグッ、ギュ、プォーン!っという感じの加速で車速が乗っていく。

このSとATモデルはリヤスタビライザー、トルセンLSDが未装着。以前、市販プロトタイプバージョンに乗った時には着座位置が後ろであるためかリヤが回り込む際に違和感を感じたが、今回の量産モデルはNA、NB、NCからでもそれほど違和感ないように進化している!またコーナリング時にSスペシャルとの明確な違いはプロトタイプの時ほど感じられなかった。僅かにSスペシャルのロール剛性が高く機敏なのかな?と思った程度であり、よほど敏感なドライバーでない限り、街中ではその走りの差に気が付かないだろう

今回の試乗で最も驚いたのは6AT仕様の完成度だった。スポーツ走行のようなシーンではもちろん、6MTの方がダイレクト感は上で適しているが、街乗りに関してこの6AT仕様モデルの走りも素晴らしいものだった。デュアルクラッチ、CVTなどある中、このトルコン式ATはシフトダウン時のブリッピング(空吹かし)も的確に決まる上、ロックアップ領域を広げるなどのセッティングが功を奏し、使い易いパドルシフトでついつい回して楽しんでしまうほどの走りの良さを実現している。このしなやかな足廻りやハンドリングには6ATの方が『走りのリズムが合っている』と感じられた。


<現代の燃費性能を持ち合わせたスポーツカー>

また試乗車は高負荷での走行が続いているであろうにも関わらず、燃費計は12.6km/ℓを指していた。走行フィールから推測すれば日常燃費は14km/ℓ以上くらいでは走れるだろう。これは街乗りで10km/ℓ程度とスポーツカーとしては比較的低燃費だった先代までのロードスターからの更なる大きな進歩である。この抜群の燃費性能と走りの楽しさの両立がNDロードスターの最大の魅力だ。長時間乗れる機会があれば実測燃費も計測してみたい。




エアバックは世界最小サイズ。ドライビングポジションは自然で乗りやすく、車両感覚も掴み易い。先代NCはやや斜め後方が確認しづらかったが、NDは視界も良好。本革シート、ファブリックシート共にホールド性が高く、座り心地は良好だ。
ドアトリムパネルは上部がボンネットデザインとつながる新しいデザインテーマだがボディ同色で各色設定される!(なかなかコストがかかるこだわりだ)。レザーが張り込まれた内張りは大人の雰囲気でデザインされ、高級感に溢れる。ただしこのドア、開ける際には要注意!あまりに軽い操作感で、いきなりドバーッと全開になってしまうことがあり、隣のクルマや壁にドアパンチしてしまいそうだ(笑)。もう少し中間で止まるように早期改良を望みたい。



最近のマツダ車の例に漏れず、ペダルは自然な配置、長時間走行でも正確なアクセルワークが行い易いオルガン式を採用。ただスポーツドライビングにおけるヒール&トゥはでは吊り下げ式の方がより繊細にアクセルコントロールし易いのではないか?とも感じる場面もあった。フットレスト後方の膨らみは触媒を避けるため



細身のステアリングの形状、本革の質感、感触がとても良い!ステアリングスポークのシルバー部まできちんとデザインされている。電動パワステは軽めのフィーリングが好きなユーザーは慣れれば問題ないレベル。ただし切り始めのカチャっとなる感じと中立付近での曖昧なステアリングフィールはせっかくのFRなのだから、もう少し熟成して欲しい。



シフトノブは初の丸型形状、本革の質感が良い。ギヤ比のセッティングは絶妙で長年ロードスターを作り続けてきたマツダのノウハウが詰まっている



メーターはロードスター初のセンターメーター。インジケーターの液晶表示やメーターリングなどの質感は高く、センターメーターというとレーシーな雰囲気でありながら、上級スポーツカーに乗っているかのようなやすらぎと高級感がある。




運転席に座ってボンネット裏のボルト&ナットがむき出しに見えるのが気になる。86/BRZやZ34などでは上手く隠されていて気にならないがNDはメーター脇からまる見え。プレミアムを名乗るなら、カバーをつけるなど対策して欲しい。

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プロトタイプで私が感動したボンネット内のボルトを隠すカバーも国産コンパクトカーに用いられる一般的なラバーに変更されている。量産ではボンネットとフロントフェンダーのクリアランスが広がってしまったため?内部の前側のボルトが外から見えてしまう。ホワイト系ボディでは目立つのがプレミアムカーとしてはちょっと残念。これもロードスタークラスとしてみれば笑って許せる範囲か

 





インパネの質感はプラスチックは一般的な質感だが、これくらいがロードスターらしくて好印象だ。Sとスペシャルパッケージはこれが標準。レザーパッケージはレザー張りとなり、ステッチも入りプレミアム感がアップ。グローブボックスはスペースと軽量化のために設定されていない


追記:SスペシャルパッケージではAUX、USBなどのジャックはシフトノブ前に2つあり、Sでは未使用時のためのカバーがある。スポーツカーではほとんど使わないユーザーもいるので上級グレードにもカバーが欲しい

 

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車両説明書などはセンター後方のボックスに収納される。奥行きがあり、かなり使える



助手席後方に隠されているETC挿入BOX




最新エンジンSKYACTIVが載ったのは歴代ロードスター初。1.5ℓは完全フロントミドシップに搭載されている。エンジンルームはオーナーが楽しめるようにとアルミのフラットなカムカバーが設定されるなど工夫されている。吸気はフレッシュエアが導入できる好位置に配置するなど長年ロードスターを作り続けたマツダならではの洗練されたデザインのエンジンルームだ。左右のフェンダーでっぱりはダミーなのでストラット上部までの距離はかなりある。

エンジンは1500ccのプレミアムガソリン仕様でND専用チューニングによって131PS/ 7,000rpm、15.3kgf・m/ 4,800rpmを発生。鍛造クランクシャフトを採用し、レッドゾーンは7500rpmと高回転化を可能とするSKYACTIVシリーズで最も自然で気持ち良いエンジンだ。全体として静かでエンジン音より乾いた排気音が軽快に聞こえてくる。軽快な吹け上がりはもちろん、吹け落ちも素早くなり、スポーツドライビングへの気持ちを熱くさせる。軽量フライホイールの効果もあると思うが、これらはプロトからフィーリングは大きく進化。現代の厳しい排ガス規制の中、このエンジンお吹け落ちのスピードは納得のいくものだ。『現代に求められるエコ性能の基準をクリアした上での軽快な吹け上がりの実現』言葉にするのは簡単だが決して容易なことではない。マツダの技術者たちの情熱(執念?)を垣間見れる部分だ。



テールはかなり絞り込んでいてコンパクトで優しい印象。NAと比べても上部はかなり絞り込んでいる




トランクは開口部が歴代で最も狭いですが、深さがあり、飛行機の機内持込サイズのバックが2個収納可能。トランクリッドもアルミ製。




歴代ロードスター大好きな私ですが、「今、NDロードスターを買うか!?」と聞かれると現状ではまだその気になれない。今ひとつピリッ!としたモデル、あるいはベース車として手頃な価格のモデルがないからだ。
今回のNDロードスターは次の10年に向けて販売していく計画で順次魅力的なモデルが追加される可能性がある。海外では2.0ℓで160PSモデルも存在し、これはきっとブレーキ、ミッション、デフなども強化されたモデルだろう。日本向けに発売されるとすればNB時代に習って考えれば『RS』というモデルとなり、ビルシュタインと大径ブレーキ、大型ラジエター、フロア補強が追加されるのであろうか。グローバルカップカーのベースとも言えるこのモデルの存在はとても気になる。


この2.0RSがあるとしたら、その装備で1.5ℓを積んだモデルは『NR-A』となって発売されるのだろうか。パーティレースのベース車がいつ発売されるのか?メディア4耐あたりで公開か?もし出るならばスタビ、トルセンLSDが装備され、装備はシンプルであろうこのモデルも気になる。更にRHT(リトラクタブルハードトップ)モデルも追加されるのでは?という噂やクーペ(クローズド)モデルもありそうなデザインにも見える。また兄弟車でフィアットかアルファか、アバルトからのバージョンが出そうなことも気になる。もしそれが噂通り1.4ℓターボで出るなら、NDに1.5ℓターボモデルなどはでないのか?トヨタとの提携によって、トヨタからも数年でロードスターの兄弟がでるのではないか!?など妄想は膨らむ。これからの展開が楽しみだ。





私は26年前、デビューしたばかりのユーノスロードスター(初代NA6CE)のスペシャルパッケージを買った。しかしそれはサスペンションがソフト過ぎて走りに特化していた私は我慢ができず、KONIとレーシングビートサスを入れて乗っていた。峠ではビスカスLSDの効きの弱さに閉口し、機械式LSDが欲しい!バケット欲しい、エンジンチューンしたい!と思っていたところでM2が発売され、ショックを受けた。その2年後に中古のM2 1001に出会い、乗り換え、今まで20年以上乗っているといった経験がある。
その後、ロードスター2台所有した際もNB8CはRSモデル、NB6CはTD-1001R、NCはNR-Aだった。その時もSやスペシャルパッケージは存在していたが、私が選択したのはスポーティモデルだった。だから『オレのND』はまだ発売されていないのだ。ここで買っては26年前と同じ過ちにまた後悔することだろう。NA時代の苦い経験は忘れません(笑)。

NDは『歴代も最もコストと時間をかけて開発されたロードスター』として歴史に残る存在になるだろう。いつかは所有してみたい気持ちもあるが、現状NDのラインナップモデルはかなりソフトなタッチであり、すべての操作に対して『オレとしては』スポンジーに感じ、正直NAのようなシンプルなダイレクト感は得られなかった。もちろん、近年のマツダ車SKYACTIV軍団の中では最もダイレクトでスポーティなのだが、クラッチやステアリング、ブレーキング、アクセルなどどのように操作しても『普通に走ってしまう』ことが不満という、なんとも贅沢な悩みなのだが、私がロードスターに求める感覚とはまだ一致していない。
一方で
『この親しみ易さこそロードスターだ!』『オレには十分に刺激的!』と感じられる人にはこれがベストであり、エントリーモデルとして『FRやスポーツカーは敷居が高い』と感じていた人にとってはステップのひとつとして買っても良いモデルだと言えるだろう。そして『もっとピリッ!とした走りが欲しい!』という私のような人たちに対してはきっとマツダがRSやNR-A、または低価格ベースモデルなど、遠くない将来に出すことを考えてくれるであろう。

今はこのFRライトウェイトシャシーをマツダが開発し、発売してくれたことを素直に喜び、今後の改良と熟成、そしてスポーツ走行が大好きなロードスターファンが欲しくて堪らなくなるような追加モデルを期待したい。

最後に今回貴重なND試乗の機会をいち早く与えてくださった湘南マツダ平塚店のみなさん、ありがとうございました!早速 S スペシャルパッケージを乗せてくれた友人にも感謝です。ありがとう!

関連情報URL : http://www.mazda.co.jp/cars/roadster/?link_id=rsmag06

 

自動車研究家

出来 利弘

 

201592053229.jpgのサムネイル画像

追記:やはりNR-Aはあった!

 NDロードスターNR-Aを研究するレポートを追加

 http://www.d-technique.co.jp/magazine/2015/09/-nd-nr-a.php



 

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